東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4512号 判決 1962年11月27日
判 決
原告
山屋八万雄
右代理人弁護士
西村真人
同
岸巌
同
糸賀昭
被告
全国信用協同組合連合会
右代理者代表理事
田中国男
右代理人弁護士
平山国弘
浅川勝重
吉武伸剛
右当事者間の昭和三七年(ワ)第四五一二号信用組合連合会総代会の決議無効確認請求事件につき、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、原告訴訟代理人は、「被告が昭和三七年五月二七日午後一時開催の総代会においてなした理事たる原告を解任する旨の決議が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として大要次のとおり述べた。
(一) 被告は、信用協同組合を会員として中小企業等協同組合法(以下中小法と呼ぶ)によつて設立された法人であり、原告は会員である永代信用組合の代表理事で被告の理事兼総代である。
(二) 被告は、昭和三七年五月一〇日開催された理事会において同月二七日開催される総代会の議案として「山屋八万雄解任の件」を採択し、同月二七日の総代会において右議案を可決した。
(三) 然し、右総代会の決議は次の理由により無効である。
即ち、原告は昭和三六年六月一〇日理事に選任されたものであるが、その任期は三年であるから、昭和三九年六月一〇日まで任期がある。
しこうして中小法によつて設立された協同組合の理事は、総会において単記無記名式投票による選挙によつて選任されるのであるから、任期中に当該理事の意思に反してその地位を剥奪するには、同法第四一条による改選の方法以外にはない。従つて理事会の発議による総代会の決議では、理事の地位を剥奪することはできないのであるから、本件決議は無効である。よつてこれが無効であることの確認を求める。
二、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対し「第一、二、項を認める。(但し原告は、昭和三七年五月二七日の総代会において理事を解任され現在は理事ではない。)第三項を争う」と述べた。
理由
一、原告が現在理事である点を除き、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。
二、とすれば本件の唯一の争点は、中小法第四一条の改選の方法以外に総代会の決議により理事を解任できるか否かである。よつて考えるに、被告は中小法に則つて設立された法人であるが、その法人と理事との関係が委任関係(正確には準委任)であることは、中小法第四二条、商法第二五四条第三項により明らかである。従つてその関係は中小法等に特別規定がない限り、民法の委任の規定に従うべきこととなるが、民法第六五一条第一項によれば、委任は各当事者においていつでもこれを解除することができる旨規定している。これによれば受任者たる理事から委任関係を終了せしめることもできるし、他方委任者たる法人からこれを罷免することも可能である。前者の場合が辞任であり、後者の場合を解任と呼ぶのである。
かように法人が理事を解任することは可能であるが、中小企業協同組合の場合いかなる機関においてこれを決すべきかは一つの問題であるけれども、解任はいわば委任契約の解約ともいうべきものであるから、委任契約の申込をなす機関すなわち理事を選任する機関においてすべきものと解するのが相当である。しこうして中小企業協同組合理事の選任は総会(中小法第三五条第三項、但し総代会をおいている場合は総代会同法第五五条)においてなされるのであるから、その解任も総会(又は総代会)において決し得るものというべきである。
三、これに対し原告は中小法には、第四一条の改選手続の規定はあつても、解任の規定がないことは、中小法は第四一条の改選手続によるほか解任の方法を認めない趣旨である旨主張するけれども、同法第四二条が商法第二五四条を準用しているのであるから、特段の理由のない限り民法第六五一条も準用されるものと解すべきであり、寧ろ中小法第四一条は民法第六五一条による右解任の方法以外に会員自らが発議して理事を罷免する特別の方法を規定したものと解すべきであつて、同条の存在はいささかも前記二、の解釈の妨げとなるものではない。
又株式会社の取締役には商法第二五七条に解任の規定があり、中小法はこれを準用していないけれども、前記二、の解釈は法人と理事との関係が委任関係であると規定した当然の結果であつて、右商法第二五七条は株主総会の特別決議によることを規定した点にその存在理由を認めるべきで中小法が同条の準用をしていないこと或は商法には同条が規定されていることをもつて、前記解釈を不当とすべきではない。
四、又原告は、民法第六五一条は片務且つ無償契約の場合の規定であつて、法人と理事の場合のように受任者の利益をも目的とする委任の場合には同条は適用されない旨主張するけれども、同条は有償、無償によつて区別しておらず、著し解除により相手方が損害を受けた場合には、同条第二項により相手方に不利な時期に解除したことによる損害賠償義務を負担させることにより、この関係を調整すれば充分である。
三、以上述べたとおり、原告の理事解任方法についての原告の主張は採用しがたい。しこうして、本件理事解任の決議については、原告は以上の点以外になんら無効事由を主張立証していないので本件決議は有効というのほかなく、従つて、その無効確認を求める本訴請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第八部
裁判長裁判官 長谷部 茂 吉
裁判官 伊 東 秀 郎
裁判官 近 藤 和 義